
筆者は小中学生・成人のアクティブ・ラーニングに携わっている。学習プログラムは講義とグループワークから構成され、最終的にはグループ毎のプレゼンテーションを行うという一般的な構成である。また、一過性のイベントを開催することは少なく、多くが通年または10回以上の回次から構成される長期間の学びを行っている。
長期間を費やすアクティブ・ラーニングには学びや思考、アイディアの深さを達成できる点で有効であるが、その一方で、学習効果を高めるためには様々な工夫が必要となる。
日々仮説・実施・検証を繰り返しているが、その中で感じるのはディベートの重要性だ。
本稿ではディベートをアクティブ・ラーニングに用いることのメリットについて論じる。
合意形成を促しつつ予定調和を回避
グループのアイディアを収斂していくためには合意形成が必要となるが、グループワークを重ね関係性が深まるとともに、たとえば「○○さんはあのトピックに興味関心があるから、そこは多少無理センでもアイディアに入れてあげよう」「△△くんは言っても聞かないから、間違っていても反論しないようにしよう」など、そこに予定調和が生まれることが多い。
実社会において空気を読むのは大切なスキルであるが、このような予定調和が頻繁に発生すると、アクティブ・ラーニングの効果は半減してしまう。
しかし、合意形成の前段階にディベートを行うことにより、このような事態をある程度まで回避することができる。
単純なディスカッションを行っている際には”空気を読んで”流すような発言が、ディベートの際には相手の論旨を覆す格好の攻撃材料になる。また、ディベートには中立的なジャッジが就くため、論理的な議論ができるかどうかが勝敗を分ける。つまり、ディベートにおいて「何を言っても聞かない」というような態度を取っていると、勝負に負けてしまうのだ。このようにして、「声が大きいだけの立論」「無理センな論旨による立論」にフィルターをかけることにより、合意形成の前段で確かな立論だけがテーブルに残るようになる。
認知バイアスを排除
アクティブ・ラーニングのグループワークにおいては、学習者の能動的な知識習得や仮説立案の材料として調査を指示することも多い。官報統計などの情報は論理的な仮説立案のために必要なエビデンスとなるし、対象分野の知見に乏しい学習者にとっては円滑なグループワークのための事前調査は必須である。
ディベートに勝利するためには自己の立論のメリットを調査するだけでは十分ではなく、弱点となるデメリットの調査とその解決策、更には相手側のメリット・デメリットについても調査する必要がある。
しかし、それよりも重要なのは、認知バイアスの払拭である。
社会の変革スピードが著しく高まっている現代においては、つい5年前まで正しとされていた論旨が、全く役に立たなくなっているというような事態が儘ある。
また、フェイクニュースや、そうでなくとも「論理的とは言い難いがよく聞く意見」がネットには多数流布している。
このような認知バイアスを引き起こす罠を払拭できるのが、ディベートの事前調査がもたらす最大の効果の1つ。自己・相手の論旨が持つメリット・デメリットを同時に調査することにより、結果として中立的な論旨へと導かれることになる。
もちろん、講師自身が想定される議論に対する想定問答を行っておくことが重要となる。
聞く力を強化
ディベートというと立論の力、プレゼンテーションの上達が目的とされることが多いが、筆者がより重視しているのは、聞く力の向上である。聞く力は、立論の力やプレゼンテーションの上達よりも重要な能力であると筆者は考える。
こと小中学生の場合、聞く力が十分に育っていないが故に、ディスカッションが平行線を辿ったり空中分解したりすることが儘ある。そもそも話を聞いていないのは論外としても、ちゃんと聞く姿勢があるのにポイントを聞き逃すのであれば、これは訓練をしていく必要がある。
筆者の開催するディベートにおいては、「立論の確かさ」「発言の明瞭さ」などとは別に、明確に「反論への適切な応答」を評価の基軸にしている。ディベート時には書き込みシートを配布し、そこに議論の趨勢を逐一書き留めさせつつ、相手からの反論をスルーしてしまった場合は、そこを確実に指摘する。
これを徹底すると、生徒は相手の意見を聞かないと議論に勝つことができなくなるため、結果として真剣に相手の意見に耳を傾けるようになる。
クリティカル・シンキングを育成
派生的な効果となるが、聞く力が養成されることで、他人の論旨についての弱点が見えるようになる。筆者の学びでは、これを最終発表前のレビューに応用している。
各グループが構築した発表の論旨を見せあい、互いに質疑をさせる。その際、生徒には「論旨の弱点はどこだろうか」という視点を与える。
生徒達は発表前にレビューの場があることを知っているので、必死に弱点の無い論旨を構築するよう努める。結果的に、論旨の弱い部位には対策が講じられている、強い論旨ができあがる。
ゲーミフィケーションにより議論のハードルが下がる
ディベートは勝敗が決まるという点において、一種のゲームである。言い負かしても意味がなく、ジャッジを説得できた者が勝者となる。
上記の点をしっかりとインストールした上で、勝つためのテクニックを小出しにしていくと、生徒がディベートを「楽しくて役に立つ学び」として捉えてくれることが多い。
実際、ディベートを経験していることで、日常のちょっとした議論においては(必要であれば)勝つことができるようになるし、相手の意見を正確に把握できるようになれば、そもそも議論の必要すら無くなることも多い。
以上、ディベートがアクティブ・ラーニングにもたらすメリットについて論じた。
アクティブ・ラーニングとは言葉の通り能動的な学習である。ただし、その最終目標が実社会における活動にある以上、単にアクティブであれば良いというわけではなく、ステークホルダーとの関係性を十分に理解・把握しつつ、議論を重ねた上での最適解を立論・実行できるようにならなければ意義が半減してしまう。
このような能力の育成において、議論そのものをゲーミフィケーションするディベートは、アクティブ・ラーニングとの親和性が高いと言える。