アクティブ・ラーニングの失敗と成功
アクティブ・ラーニングの実践においては、かなりの恐れが伴う。これは、アクティブ・ラーニングの講師を経験した方であれば、誰しもが体感しているのではないかと思う。
アクティブ・ラーニングに対する恐れとは、要約すれば「生徒が臨む問い立てに、唯一の正解が無い」ということに尽きる。
この事を恐れ過ぎても、逆に全く恐れを抱かなくても、講師の想定したカリキュラムが瓦解する可能性が高まる。正しく恐れるために、以下のようなテキストが役に立つ。
アクティブ・ラーニングの失敗
「アクティブ・ラーニングの失敗事例ハンドブック」という資料が、文部科学省の平成26年度「産業界ニーズに対応した教育改善・充実体制整備事業」の成果物として公開されている。
この資料の興味深いところは、ただ失敗事例を列挙するだけでなく、「アクティブラーニング失敗結果マンダラ」という図に体系化しまとめている点だ。これを見るだけで、失敗した際に発生し得るリスクの範囲を確認することができる。
また、この内容を原因で括った「アクティブラーニング失敗原因マンダラ」という図表も掲載されている。
「アクティブ・ラーニングの失敗事例ハンドブック」は、この2つのマンダラを頂点に、実践の際の注意点が「指導」「評価」「その他」の観点からケーススタディを挙げて説明されている。
この事例集はとても良くまとまっているので、計画を立てる際の参考にしていただきたい。
実際にアクティブ・ラーニングを実践している講師の方も、復習を兼ねて一読することをお勧めする。過去のトラウマになっているような事例が沢山掲載されているはずである。
勘所は「ドライブ感」と「やってる感」
アクティブ・ラーニングの勘所、それは、生徒の能力・やる気にある。
この資料では、生徒の「浅薄な議論」「作業内容の不足」「安易な回答」「無関心」などが原因として記載されているが、それと同時にその対策についても記載されている。これ自体は、講義が袋小路にはまってしまった際には役に立つ打開策であるが、それ以前に注意すべき点がある。
ドライブ感はあるか
一点目は、そもそも掲げられているミッションは生徒の興味をそそるものなのか、講師はその興味深さをキチンと伝えられているか、という点だ。
ミッションを伝えた際、生徒に「え?そんなことできるの?」という感覚と「(大変そうだけど)ほんとにできたらすごいな」という感覚を、生徒に持たせられる内容となっているか。構築する成果物が手に取るようにイメージでき、そこに創意工夫が介在する余地が十分に想像できるミッション。まずこれが必要である。
ゴールを示した段階で、生徒が前のめりになる状態を演出するのが、講師の大切な役割となる。
やってる感はあるか
ただし、ゴールへの道のりは低すぎても高すぎてもいけない。低すぎれば生徒の成長にはつながらない。高すぎれば誰も到達できない、あるいは「やらされてる感」満載のままゴールへ向かうことになる。生徒の学力・知識レベル的に、「そこそこ苦労すれば及第点、かなり苦労すれば合格点に達する」レベルのハードルを設定することが必要になる。このレベルを保つことができれば、生徒の「やってる感」は継続できる。
なおこの点において、アクティブ・ラーニングの実践にあたっては、ある程度学齢が均一であることが望ましい。
「適切なハードル」の設定が難しいという問題
これを解決するためには、2つのアプローチがある。
1.ハードルの後付け
最初の到達レベルを低めに設定しておき、ハードルを通過した者だけに追加課題を提示する方法がある。
たとえばこんなものが考えられる。
ケース:ポスター製作をアウトプットとした場合….進捗の早いチームに対し
- PCを利用した画像制作を許可する
- ポスターだけでなくリーフレットの制作を指示する
- 別のターゲットにも訴求できる2枚目のポスター制作を指示する
頑張った者、能力のある者だけが、さらに高みに到達する権利を有することとなるが、これはかなり有効な手法である。
なお、追加課題は予め準備しておくことが望ましい。
2.講師の得意分野で行う
これは、私がよく使う手法である。
専門分野であれば、それぞれのステップの難易度が比較的容易に想定でき、また思わぬトラブルや機能不全への対処もしやすい。逆に、自分が門外漢であるミッションを借り物のように持ち出すのは、かなり危険な試みであると思う。少なくとも、自分が興味を持てる分野においてミッションを設計すべきであると考える。
失敗は恐れつつ、極度に恐れず
アクティブ・ラーニングの実践には恐れが伴うものであるが、極度に恐れ無難なカリキュラムを組んでしまったとしたら、結果として一番大切な「生徒の能力向上」につながらない。また、アクティブ・ラーニングだけが能力向上の手段ではないし、生徒によって向き不向きもあるだろう。
大切なのは、講師が適度にビビりながら、進捗の趨勢を楽しめるくらいの緊張感であると思う。やる気のない生徒をやる気にする努力は必要だが、それでもやる気が出ない生徒がいるなら、「今のこの子はそういう気分ではないのだ」と割り切って、今ドライブ感を持っている生徒を引き上げるくらいの覚悟が必要であると考える。