アクティブ・ラーニングにおける合意形成と縛ってはみたが、おそらく社会生活全般に対して言えることだと思う。
例によって、中学生に対する合意形成のテキストであり、批判や改善要望は謹んでお受けする。
合意形成とは
早速余談となるのだが、合意形成について定義するWeb上の辞書がかなり少ない。不本意だが、Wikipediaより引用する。
ステークホルダー(多様な利害関係者)の意見の一致を図ること。特に議論などを通じて、関係者の根底にある多様な価値を顕在化させ、意思決定において相互の意見の一致を図る過程のことをいう。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/12/13 14:16 UTC 版)
まあ、これじゃわからない。
というわけで、このエントリーの一番下で話すことを仕込んだ上で、まずは合意形成をしないことのデメリットを伝える。
合意形成を怠ると
- 納得できない人は、納得しないままになる。彼らは自主的に動いてくれなくなるし、しばしば抵抗勢力になる。
- 納得感がないままに決定されるため、関係性が悪化する。
- 賛成側も、実は考えていることがバラバラのままになる。
- 決定事項のデメリット、否決事項のメリットが精査されない。
特に1,2は様々なところで語られているが、大切なのはむしろ3と4だと考えている。
人類最強の対意思決定用決戦兵器である「多数決」様が議論の冒頭から放たれることにより、決定事項のコンセプトもバラバラ、否決事項に隠されたメリットを享受できなくなることが問題である。
つまり合意形成とは、超すごいプランへの道筋なのだ!
と、バカボンのパパ風に言い放ちたい。これでいいのだ。
合意形成の極意とは
ここからは、ディベートとの対比で話を進めていく。
- 人の話に真剣に耳を傾ける
たとえ意見が合わなくても、そこには自分が思いもよらないアイデアへのヒントが隠されている可能性がある。 - 相手視線で考えてみる
なぜ自分と意見が違うのか、そう考えた理由は何なのかを考えながら話を聞く。わからなければ、どんどん質問して理解しようと努める。
共感はしなくてもいいが、理解するように努力しよう。 - 自分の論旨をはっきりとさせる
相手だけでなく、どうして自分はこういう意見になったのか。自分の意見の背景にある理由を突き詰めよう。
そして、その意見のメリットだけでなくデメリットも意識しよう。 - 議論を俯瞰する
自分の意見と相手の意見の違いは何か、議論を一歩下がった視点から冷静に見る意識を常に持つ。 - メモり、絵解きする
他人の意見をメモる癖をつける。そして、議論の関係性を絵に落とす努力をしてみよう。
どっちでも良くない?問題
中学生に合意形成の大切さを伝えるにあたり、一番のハードルとなるのは「どっちでも良くない?」という発言に対する対処である。多数決に慣れている中学生は、議論により検討すべきファクターが多く顕在化すると、考えるのがめんどくさくなってきて多数決に頼ろうとする傾向がある。無理もない。大人もそうなんだから。
というわけで、私の講義では、合意形成について伝える前に、2週間ほどかけて徹底的に「どうしても意見が対立してしまう」ディベートをさせる。このシチュエーションを構築するのは意外と簡単。条件設定に「相手を完全論破すること」とつけるだけで良い。
なんのことはない。このようなやり取りは日々Twitterでも眺めていればいくらでも先例がある。しかし同時に、子どもの目からも酷い先行事例に映っている。
完全論破の難しさと、そうしようとすることの意味の無さを実感してもらった上で合意形成の大切さを伝える。
その上で、「さて、さっきまでやっていた無理ゲーから、『完全論破』の条件を削って、もう一度議論してみよう」と言うと、スルスルと合意形成へと議論が導かれる。
かくして、合意形成の成功体験とともに、深い議論を行える生徒が誕生する。
おまけ:弊害
これをやると、確かに議論の質は高まる。しかしその反面、「ランダムでグループに分かれて」みたいな、ホントにどっちでも良いお願いをしても、議論がはじまるようになる。それはそれでとても素晴らしいが、いちいちめんどくさい生徒になる(無礼)。
時間が限られた、ホントにどうでも良い決定を行う際には、はじめからランダムに振り分けられるメソッドを幾つか準備しておくことをお勧めしたい。