2019年8月に実施された朝日新聞の調査によると、日本におけるSDGsの認知度がようやく20%を越えたそうだ。
これを低いとするかどうかは議論の分かれるところかもしれないが、いずれにせよSDGsという素材がアクティブ・ラーニングにとって良質な素材であることに間違いはない。本日は、その理由について論じる。
SDGsはコミュニケーション・ツール
まず、最も大切なことは、「SDGsがコミュニケーション・ツール」として優秀であることである。これは私の所属する会社が主催しているプラチナマイスター・アカデミーにおいて講師を務めていただいている、博報堂DYホールディングス川廷昌弘氏の言葉であるが、この言葉は金言である。
従来、雑多になりがちで成果が読み取りづらかったソーシャル・アクションを、SDGsが様々な課題を集約しカテゴリ化したことにより、その位置づけや意味づけを容易にした。
任意のソーシャル・アクションを提案する際、100の言葉を連ねるのではなく、「このアクションはSDGsの1と8と14を解決します」と語れるようになった。
これはアクティブ・ラーニングにおいても同様であり、たとえば以下のような利用方法が可能となる。
- 近似の課題に興味関心を持つものでグループ分けをする
- 興味関心の領域が偏重しないようなグループ分けをする
- 課題に、たとえば「SDGs8.2の解決を必須とする」という制約条件をつけることにより、グループ発表の内容の振れ幅をコントロールできる
- 連続的に課題を提示し、その内容を集計することにより、興味関心の偏りを可視化することができる
アクティブ・ラーニングの効果を固める要素として”成果の定量的評価”は重要なポイントであり、実践者には常にこの課題がつきまとうが、SDGsはこの課題をある程度まで解決してくれる。また、グループワーク中のコミュニケーション、気づき、合意形成も促すことができる。
つまりSDGsは、学習者にとっても、ファシリテーターの立場からも、コミュニケーションを活性化させるためのツールとなり得る。
良質な学習コンテンツが揃っている
アクティブ・ラーニングを計画する際に大きな課題となるのは、良質な入力情報の準備であるが、国連が提唱していることもあり、SDGsは情報の入手も比較的容易である。
SDGsの概念、各国の進捗状況、先駆的な取り組み事例など、少し調査を行うだけで容易に回答へ辿り着くことができる。
以下に、一例として筆者が多用するサイト情報を掲載する。
概念の理解
現状の把握
Sustainable Development Report Dashboards 2019(2019 ©SDSN | BertelsmanStiftung)
先行事例
Society5.0 for SDGs(2019 ©経団連)
学習者の持つ常識の棚卸ができる
成年未成年を問わず、現代社会の状況についてグローバル・ローカルの双方の観点から正確に把握できている学習者は少ない。前述の通りSDGsでは関連したデータの検索性が容易であるため、SDGsの調査を通じて現代社会の状況を再確認することが可能となる。
また、その情報は日進月歩で進んでいるため、たとえば「10年前には大きな問題であった初等教育の就学率が、現代においてはかなり改善されている」というような事実を、正確なデータに基づいて把握することができる。
これにより、「情報を常にアップデートしなければ、正確な現状を把握することができない」という、アクティブ・ラーニングの実践において重要な、調査に対するインセンティブを付与することが可能となる。
日本と世界を相対化できる
SDGsの各項目を熟読した上で、現代の日本が抱える課題をプロットしようとすると、SDGsのどの項目にも適合しない(落ち着きが悪い)課題がかなりある事に気づく。
SDGsは国連が提唱したものであり、そのプライオリティは途上国に向けられたものである。先進国が抱える問題は、SDGsのその先にあると言える。
これらの把握を通じ、学習者には日本社会を相対化するための気づきと、クリティカル・シンキングの重要性を身を以て体感させることができる。
以上のように、SDGsはコミュニケーションの活性化を促す、良質な入力情報が容易に入手できる、調査を通じて学習者の持つ常識をアップデートすることができ、これが学習のインセンティブに繋がるという理由から、アクティブ・ラーニングにおいて良質な素材である。