PISAの調査結果概要と、付帯的に思うことなど

2018年に実施された経済協力開発機構(OECD)の学習到達度調査(PISA: Programme for International Student Assessment)結果が公表された。

調査結果の概要は、文部科学省・国立教育政策研究所のレポートによれば、以下のとおりである。

  1. 3分野
    ・数学的リテラシー及び科学的リテラシーは、引き続き世界トップレベル。調査開始以降の長期トレンドとしても、安定的に世界トップレベルを維持しているとOECDが分析。
    ・読解力は、OECD平均より高得点のグループに位置するが、前回より平均得点・順位が統計的に有意に低下。長期トレンドとしては、統計的に有意な変化が見られない「平坦」タイプとOECDが分析。
  2. 読解力
    ・読解力の問題で、日本の生徒の正答率が比較的低かった問題には、テキストから情報を探し出す問題や、テキストの質と信ぴょう性を評価する問題などがあった。
    ・読解力の自由記述形式の問題において、自分の考えを他者に伝わるように根拠を示して説明することに、引き続き、課題がある。
    ・生徒質問調査から、日本の生徒は「読書は、大好きな趣味の一つだ」と答える生徒の割合がOECD平均より高いなど、読書を肯定的にとらえる傾向がある。また、こうした生徒ほど読解力の得点が高い傾向にある。
  3. 質問調査
    ・社会経済文化的背景の水準が低い生徒群ほど、習熟度レベルの低い生徒の割合が多い傾向は、他のOECD加盟国と同様に見られた。
    ・生徒のICTの活用状況については、日本は、学校の授業での利用時間が短い。また、学校外では多様な用途で利用しているものの、チャットやゲームに偏っている傾向がある。

『OECD生徒の学習到達度調査2018年調査(PISA2018)のポイント』P.1
(文部科学省・国立教育政策研究所 令和元年12月3日)

新聞各社は大喜びで報道している。
読解力が落ちた、その原因を新聞や読書の習慣が低下したことにあると「読みとれなくもない」からである。

しかし、前述の資料を見る限り、全く別の結果であるようにも捉えられる。
以下、同資料の内容を表にまとめてみる。なお、その引用がポジティブであるかネガティブであるかの判断は、私の個人的見解である。

項目ポジティブネガティブ
1.読解力
  • OECD平均より高得点のグループに位置(P.3)
  • 平均得点トレンドに統計的に有意な変化がない(P.3)
  • 「理解する」能力については、その平均得点が安定的に高い(P.4)
  • 2015年調査(516 点)から有意に低下(504点)(P.3)
  • 「情報を探し出す」能力の得点が低下(P.4)
  • 「評価し、熟考する」能力の得点が低下(P.4)
  • 2018年調査から追加された「質と信ぴょう性を評価する」「矛盾を見つけて対処する」を問う問題の正答率が低い(P.4)
2.読解力と読書の関係
  • 読書を肯定的にとらえる生徒の割合が多い(P.6)
  • 「国語の授業の雰囲気」指標、「国語の授業における教師の支援」指標の値がOECD平均を上回っており、国語の授業の雰囲気が比較的良好(P.6)
  • 読書を肯定的にとらえる生徒や本を読む頻度が高い生徒の方が、読解力の得点が高いが、本を読む頻度は2009年と比較し減少傾向(P.6)
  • 「国語教師のフィードバックに関する生徒の認識」は、OECD平均より低い(P.6)
3.数学的リテラシー
  • 世界トップレベルに位置(加盟国中1位)(P.7)
  • 長期トレンドでも、世界トップレベルを維持(P.7)
 
4.科学的リテラシー
  • 世界トップレベルに位置(加盟国中1位)(P.7)
  • 長期トレンドでも、世界トップレベルを維持(P.7)
 
5.平均得点と社会経済文化的背景(ESCS)
  • 日本はOECD加盟国内でESCSの差が最も小さく、ESCSが得点に影響を及ぼす度合いが低い(P.8)
  • 日本、OECD平均ともに、ESCSが高い水準ほど習熟度レベルが高い生徒の割合が多く、ESCSが低い水準ほど習熟度レベルが低い生徒の割合が多い(P.8)
6.課外のインターネット利用 
  • 日本、OECDともに課外インターネット利用が4時間を以上となると、3分野ともに平均点が低下(P.9)
  • 日本は30分以上4時間未満利用する生徒の平均得点に差異はない(OECDでは4時間未満について利用時間に比例し得点が上昇)(P.9)
7.デジタル機器の利用 
  • 学校でのデジタル機器利用時間がOECD加盟国中最下位(P.10)
  • 他国と比較しネット上のチャットやゲームを利用する生徒の頻度が高く、かつその増加の程度が著しい(P.10)
  • コンピュータを使って宿題をする頻度がOECD加盟国中最下位(P.10)

「数学的・科学的リテラシーが引き続き世界最高水準だなんて、すごいことじゃないか」とか、
「読解力の低下は、それほど気に病む話ではないんじゃないか」とか捉えることもできそうである。

 

一方、これは単なる立場が異なる人による見解の相違である、と捉えることもできる。

実際、文部科学省はこの夏、2025年度までに1人1台体制を目指すとリリースしている。
学校のICT活用遅れ、解消へ一歩 文科省が工程表(2019/06/25 日本経済新聞)

デジタル機器の導入は、外から見ても残念な状況にある
何がって、これらよる機会損失やICT習熟度の遅れが、今回の読解力を引き下げている全ての元凶なんじゃないかと思えるからだ。数学的・科学的リテラシーの無い、100%文系人間である私は、上記表「6.課外のインターネット利用」が残念な状況になっている理由の一つが、「7.デジタル機器の利用」にあるのではないかと「直感的」に思ってしまう。

つまり、こういうことだ。

  1. デジタル機器の効果的な利用方法を教えられていない→
  2. だから、遊ぶものとしての傾向が相対的に高くなってしまう→
  3. そのため、デジタル機器がもたらす知識・能力の向上の恩恵を得られていない

こんなに有用で、時には武器や防具だけでなく話し相手や先生にもなってくれる筈のデジタル機器が、単なる「通信機能付きふぁみこん」になってしまっていることが残念で歯がゆい。
そして、その原因を元PTA会長的な実体験でとらえると、「そもそも公立小中学校の先生が、パソコンをろくに使いこなせていない」というトホホな現状に起因しているように思えてならない。メールでデータを送っても一向に返信なく、一週間後の電話で「見てませんでした。ははは」みたいな回答が来たり、珍しく送られてきたデジタル原稿の拡張子が.JTDだったり

 

あと、原稿が.JTDだったり

デザインカンプが.p65だったり

タイトルロゴがHG創英角ポップ体だったり

(最後のは明らかに関係ない)

 

ところで、最近私が気になっているのは

実は、読解力低下自体よりも、子ども達が文書を脳内でどう理解しているのだろうか、ということだったりする。

私の場合、人と話をしていたり、自分の思考を整理していたりする際に、無意識に情報を図表化する傾向にある。
あえて「私の場合」と断ったが、ノートを整理する際に箇条書きにするとか、前述の図のようにネガポジに分けてみるとか、小中学生の頃から普通にしてませんでした?

最近、書くのを嫌がる(避ける)生徒が多く、このような傾向のある生徒達は、物事を整理するのが比較的苦手であると感じている。ディベートなどをしていると、これが良くわかる。

書くのが苦手な生徒は、論旨を要約する力が弱い。
ゆえに、相手の話した言葉をそのまま書き写そうとする。
ゆえに、書ききれない。
ゆえに、相手の論旨をつかめない。
ゆえに、ディベートに勝てない。

最近の私の仮説は、
要約とはすなわち脳内における『論旨の図式化・記号化』であり、この力を伸ばすことができれば、読解力は伸びるのではないか
逆に、読解力は全ての基本であり、これを伸ばさないとパフォーマンスは上昇しないのではないか

ということである。

 

そういうわけで、読解力の低下は、その原因がどうあれ講師である私にとって重大な課題であり、どうやって伸ばすべきかを日々考えている。

良いアイデアがあれば、ご教示願いたい

TsunenoTakashiサイト管理者

投稿者プロフィール

1973年生まれ。千葉県松戸市在住。
株式会社プラチナマイスターCOO
金融機関においてシステムエンジニア・プランナーを経験後、障がい児の娘が小学校へ入学した2010年にフリーランスへ転向。以降、Webを中心としたディレクター/エンジニアとして従事。
業務とともに地域活動にも従事し、PTA会長等を歴任。お金は大切ですが、時にはお金よりも大切な仕事もあります。

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